暗闇に、明かりを灯す。
闇に紛れてこちらを襲っていたモンスターは、足早に影に身を潜めた。

明るく照らされた部屋には、宝箱があった。
中には、紋章の入った腕輪が入っていた。これも、あの羽根のようなアイテムなんだろうか…
試しに付けてみると、腕に力がみなぎる様な気がした。持っている剣の重さを感じない。
一旦剣を鞘に戻し、部屋に敷き詰められていた大きな壺を両手で持ち上げてみた。
壺は、いとも簡単に持ち上がり、そしてそれを、いとも簡単に宙に放る事が出来た。
これさえあれば、今まで通れなかった道も通れるようになる。


壺を持ち上げ、道を作る。スイッチを切り替え、敵を倒して前へと進む。
ようやく地図を見つけたが、その頃にはもう殆どの部屋を通って来ていたようだった。
地図を見ると、どうやらダンジョンの構造までも壺の形をしているようだった。まさに「壺の洞窟」だ。


一際大きな鍵を見つけた。どうやらこれが、ここのボスの部屋の鍵らしい。
地図を見る限りでは、ボスの部屋に行けるような道はない。恐らく、違う階層を伝った通路があるのだろう。
案の定、しばらく進んでいった先に、上階へと続く階段を見つけた。
その階段の先の薄暗い通路には、巨大な土管と奇妙な植物のモンスターがいた。
単純な動作で襲ってくるその植物を、リンクは剣で薙ぎ払った。


通路を抜け、階段を下りる。穴に塞がれた道を飛び越えたところに、大きな扉があった。
鍵を挿し込み、回す。扉が開く。


「ウヒョヒョ!今度の相手はワシでごじゃるよ!ウヒョヒョ!」

部屋中に響く、けたたましい声と共に、入ってきた扉は閉められた。
声の主は、分からない。目の前には、不気味な色をした壺が置かれていた。
すると、突然にその壺がうねうねと動き出し、リンクの前へと躍り出た。
そしてその壺の口から、真っ白な煙が吹き出てきたかと思うと、それは次第に形を成し、巨大な魔人となった。

「ウヒョヒョヒョッ!この壺がある限り、不死身でごじゃるよ!」

魔人は、その道化師のような顔でこちらを睨み付けると、掌から火の玉を幾つも作り出し、お手玉をしだした。
火の玉は不規則にブレながら、魔人の掌で舞っていたかと思うと、突然こちらに向かって来た。
速さはあまり無く、危なげなくかわす事が出来た。剣を構えなおし、踏み込み、宙を舞う魔人を切りつけた。

しかし、手ごたえは全く無い。
どうやらこの魔人は、実体の無い「煙」でしかないようだった。
何度も切り込んでみるも、やはり何の手ごたえも無い。

--- これじゃ、攻撃のしようが無い…!一体、どうすれば…

どうしようもないまま、火の玉を避け続けていると、魔人は壺の中へと戻っていった。
そしてまた、壺はうねうねとこちらへ寄ってくる。

リンクは壺を切りつけてみた。相当に丈夫なのか、壊れる様子は無い。
しかし、壺の不気味な動きは収まった。

「……! 動けないでごじゃる。」

「…動けない?」

「でも大丈夫でごじゃる。そんな鈍らな剣では、この壺は壊せないでごじゃる。」

確かに、何度斬っても傷一つ付かない。それどころか、斬ったこちらの手が痺れるほどだ。
壺はまた動き出しこちらへ向かってくる。斬りつければ、動きは止まる。しかし、それだけだった。
鈍らな剣、確かにその通りだった。これは、修行用にと携えた、普通の剣でしかない。

「そんな剣より、ここの壁の方がよっぽど硬いでごじゃる。」

壺の中から、あの魔人の声が聞こえてきた。余裕の台詞、なのだろう。
その声色は、どこか得意げでさえあった。

--- 壁…? ひょっとしたら、この腕輪の力で…

リンクは、動きを止めた壺を持ち上げ、思い切り壁にぶち当てた。
壊れはしなかったものの、あの頑丈な壺の端に、かすかにひびが入った。
壺はまたうねうねと動き出し、煙を噴き出し、また魔人が現れた。
顔には、やや焦りの色が見えたような気がした。

「ウ、ウヒョヒョヒョッ!この壺がある限り、不死身でごじゃるよ!」


壺を止め、思い切り壁にぶち当てる。幾度か繰り返すたび、遂に壺は粉々に砕け散った。
巻き上がる煙と共に、魔人が姿を現した。

「何て事をするでごじゃるか! ワシャ、もう許さんでごじゃるよ!!」

壺に隠れていた時とは比べ物にならない速さで、魔人はその身を躍らせた。
円を描く軌道で、この狭い部屋中を動き回っている。やがてそれは2つに分かれ、リンクの目を惑わせた。
音も無く消え去ったかと思うと、背後から火の玉を投げ付けて来た。少し火傷を負いながらも、リンクも踏み込んで、斬り上げた。
悲鳴と共に、魔人はまた姿を消す。そして再び分身と共に、部屋中を回る。姿を現す。斬る。
ボロボロになっても、魔人はまだ攻撃の手を緩めない。
とどめの回転斬りを放つと、魔人は爆散し、煙と共に消えていった。



奥の部屋は、祭壇だった。
やはりここにも、「セイレーンの楽器」があるようだ。
遠目で見ると、貝の形をしている。法螺貝なのか、そもそも、本当に楽器なのか。

近付いて手に取ると、楽器はまたひとりでに、「風の魚」の歌のメロディーを奏でた。
「巻貝のホルン」から流れ出した、低く、深く響く音色には、やはりどこか、悲しげな響きがあるような気がした。

やがて、楽器から光が溢れ、リンクを包む。
音と光に埋もれ、意識が遠のいていく中で、リンクはまた「あの声」を聞いた。

「……草原…草原…………草原が、待っている……」


 

 

 

 

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