ハイラルに帰る航海の途中・・・・どうやらとんでもない悪天候に出くわしてしまったようだ。
雷鳴が轟いている。海は荒れ、波という波が牙を剥いて船を揺らす。海面には電撃の餌食となった魚たちが、流されるままに浮いている。
空は雨雲に覆われて暗く、雷鳴と共に光る一瞬のみ厚い雲の陰が見えるばかりだった。
雨に叩きつけられ、とても目を開けられる状態ではない。既に全身は濡れてしまっている。

とにかく、今は必死にロープと柱にしがみつく事しかできない。歯を食いしばり、力を込めた。
腕に巻きつけたそれは、マストの揺れと共に激しく動き、腕を指を強く締め付けた。

---くそっ!・・・嵐よ、止んでくれ!

船の浸水がだんだん酷くなってきている。しかし、それを汲み出す余裕は無い。荒れ狂う高波が小船を激しく揺らし、立っていられない。
一瞬、真上から目映いばかりの光が降り注いだ。同時に青白い光の糸がマストめがけて降って来た。
それに気付いた彼はすぐさま柱から身を引いた。そして次の瞬間、小船に電撃が襲い掛かった。
かろうじて直撃は防げたものの、体が痺れている。船体はちりじりに崩れ、無数の板切れと化した。
マストも焼き焦げ、柱は真っ二つに裂けている。
とっさに板切れを掴んだが、そのまま意識が遠のいていった・・・・・

 


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ゼルダの伝説
夢を見る島
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「あっ!気がついたのね! よかった。もう駄目かと思った……
怖い夢を見ていたみたい…ひどく、うなされていたよ。」

声を聞き、はっとして身を起こした。どこか懐かしい声だ……。まさか、

「…ゼルダ姫?」

まだ焦点も定まらないまま、声の主に話しかけた。

「えっ?ゼルダ?違うわ。 私はマリン。…意識がはっきりしてないのね。ここはコホリント島よ。」
「………。」

怖い夢……あの嵐の海は夢だったのだろうか?
…いや、違う。確かに僕は修行を終え、ハイラルに帰る途中だった。
…考えるのは後にしよう。まだ頭がぼんやりしてる…。

マリン…見た感じ年は同じか、少し上だろうか。茶色の、長い髪をしている。
部屋を見渡すと、おじさんが一人、椅子に腰掛けていた。

「やあ、リンク。 起きただか? おらは、タリン。 気分はどーだ?」

とややの訛りのある口調で応答を求められた。
驚いたのは、おじさんが僕の名前を知っていたことだ。

「ん?どーして名前が分るのか不思議だってか…?」

聞いてもいないのに、おじいさんは言った。恐らく表情で分ったのだろう。

「盾の裏に書いてある名前を見ただよ。 ほーら、この盾だ!」

それは、僕が修行に使っていた木の盾だった。

「有難う御座います。助けてもらった上に、盾まで持ってきてくれて…。」
「…いや、お前さんを見つけたのはマリンだよ。 …そうそう、浜辺には他にも
打ち上げられたものがあっただよ。 もし、探しに行くなら怪物に気をつけるだよ。」
「道に沿って南に歩けばあなたの流れ着いた浜辺よ。…ただ、あなたがこの島に来てから
   怪物たちがこのあたりにもうろうろする様になったの。気をつけて行ってね。」
「分った。ありがとう。」

確かに素手ではモンスターに攻撃もできないが、盾さえあれば何とかなる。
マリン達に礼を言い、家を後にした。

家を出て、受け取った地図を見た。どうやらこの村はメーべの村というらしい。
民家は少なく、自然がいっぱい、といったところだ。案外村は広く、小さいがお店やゲーム屋?などがある。
心地良い風が吹いている。草木も風に揺れ、なぜか足元にはニワトリが……飼いニワトリ?と思いきや、
ニワトリは村中に群がっていた。村の西方にあるモニュメントに至っては、『空飛ぶニワトリ 此処に眠る』とまで書いてある。
この村はニワトリと何か縁があるのだろうか?

ふと、空を見た。
あの嵐とはうって変わって、澄み切った水色の空が何処までも続いている。
山の方に目を向けると、ごつごつした岩肌が見えた。
しかし、よく見ると山の頂に、かなり大きな卵が見える。
赤っぽい色の斑点があり、大きさは人の背くらい軽く超えているだろう。…何の卵なんだろう?
恐竜か?とも思ったが、その回りにはそれらしい生物は見当たらない。
---この島を出る前に、調べてみよう。修行の成果を試してやろうじゃないか。
軽い恐怖心と大きな好奇心が揺れ動いた。


ざっと村を見て回った。やはりあまり発展はしていないようだ。住んでいる人も少ない。村全体で考えても20人いるかいないかの人数だ。
---一人一人に挨拶するのは後にしよう。怪物とやらに剣を取られちゃいけない……。
修行で使い古した盾を片手に、リンクは海岸へ歩き出した。

体が軽い。散々修行し、帰路に着いたとたん嵐が来て危うく遭難…疲れていた。…どうやらぐっすり眠れていたようだ。
潮風が心地よく、散歩でもしたい気分だったが、むしろ「山頂の卵」の事の方が気になった。そのためにも、早く剣を取り戻したかった。
しばらくすると、立て札を発見した。『→テールの洞穴 ↓トロンボ海岸』…洞穴が気に掛かったが、とりあえず後回しする事にした。

少し進むと、小高い丘になっていた。二段になっていたその丘を、リンクは軽々と跳んだ。
降りたところには、妙な化け物がいた。壺に足が生えた様なモンスターだった。が、襲ってくる様子は無い。
海岸のほうにも目をやると、似たようなモンスターでいっぱいだった。気味が悪い。囲まれたら厄介そうだ。
リンクはまたひょいひょいと段を降りていった。ようやく砂浜の地面が現れた。例の壺の化け物もうようよといた。
海岸の西端には、ちょっとした岬のような見晴らしの良いところがあった。

と、気を緩めた刹那、背後から砂を底から掘り上げるような音が聞こえてきた。そして次の瞬間、
目の前に飛び出してきたのは鋭い刃を持ったモンスターだった。しかもその刃は回転しつつこちらに向かってくる。
おまけに二体に囲まれてしまい、逃げ場を失ってしまった。するとリンクは、盾を構え、敵に突進して行った。

---少し強引だけど、傷を負うよりはマシだ!

足に力を込め、タックルのような格好でモンスターに突っ込んだ。反動でこちらもひるんだが、手は休めなかった。
そのままモンスターたちを押し倒し、海岸に沿って走った。
今度は、先程の壺の化け物がいた。リンクは無視して走った。が、予想に反して壺の化け物は、口から岩を吐き出した。
そのスピードは速く、盾で防ぐのが精一杯だった。刺激が盾から腕へと伝わり、一瞬手が痺れた。
武器無しでは相手をする事もできない。一目散に奥の海岸に逃げ込んだ。


剣を見つけた。綺麗に垂直に海岸に突き刺さっていた。
抜こうと思って剣に近づいたその時、バサバサと鋭い羽音が聞こえた。
羽音の主は、梟だった。その梟は、小船の一部であったであろう流木に掴まると、何か言いたげにこちらを見た。
そして、なんとそのままこちらに向かって語りかけてきた。

「ホッホウ!ホッホウ! 坊やが、その剣の主か。…ホホウ なるほどなるほど。魔物どもが暴れだすわけじゃ…。」

呆気にとられていたリンクは、梟を凝視していた。しかし梟は気にすることなく続けた。

「『風の魚』の目覚めを告げる使者が現れたのじゃからなぁ……。『風の魚』を起こさねばその使者は島から出れぬとか。」

…『風の魚』?目覚めの使者?島から出られない?
混乱しつつも、話の筋からそれが自分であるという事はなんとなく分かった。

「…ホッ! 村の北にある不思議の森まで来るがよい。 待っておるぞ…ホッホウ!ホッホウ!」

再び鋭い羽音を立て、梟は去っていった。なんだったのだろうか…
『風の魚』…目覚めの使者…何度考えても話が見えてこない。
ただ、あの梟にもう一度会う必要があるようだ。

ともかく、何をするにも剣が必要だ。
砂浜から剣を抜き、天に掲げた。力が無限に湧いてくる様な気がした。

一呼吸おいて、リンクは回転斬りを放った。全身に力を込め、剣を一気に振り抜き自分の周囲を一掃する技である。
その攻撃力は通常の斬りの二倍近い威力を誇る上、死角が無いという利点もあった。
巻き添えを食らったウニのようなモンスターは、一瞬のうちに真一文字に斬られ、トロンボの海岸に消え去った。

入れ替わるように、化け物が背後から襲ってきた。

「…手加減はしない。 かかって来い!」

応答代わりに化け物達は一斉に岩を吐き出した。
リンクは前進しつつその岩を盾で受け止めた。手に痺れが来たが、休む間も無く相手に切り込んだ。

「はっ! せやぁっ!!」

盾の構えを解いて剣を両手に持ち、上から斜めに切り落とし、下から上へと切り上げた。風を切る音が海岸に響き渡った。
二度の斬撃によって、化け物達は一瞬にして倒れ、昇華した。

---村に戻る前に、「暴れだした魔物」とやらを片付けていくか……。
リンクは腕に力を込め、再度海岸へ駆けて行った。

 

 

 

 

 

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