「ふぅ…これで全部か……。さすがにちょっと疲れたな。」

手当たり次第に海岸を捜索し、モンスターを見つけては、切った。時間にして三十分位だ。
修行が成ったと言えるのか、もしくは敵が弱いのか、リンクの体には掠り傷一つ付いていない。
しかし疲労は取れず、あの梟には悪いと思いつつ、森は後回しにしようと考えた。この島の住民への挨拶も兼ねて、村で一休みすることにした。

村へ帰る途中、図書館の前で遊んでいる子供たちに声を掛けられた。

「あ! タリンおじさんが連れてきた兄ちゃんだ!」 「あ!ホントだ!」

よく似た二人が話しかけてきた。これが噂の四つ子か…。後の二人は町の中に居たな。
適当に話を合わせていたが、どうやらこの島は他の国や島とは全く交流が無いらしい。島の外のことすら考えた事が無いという。
話し終えると、また二人は遊び始めた。その後図書館に入ろうかとも思ったが、疲れていて本を読む気にはなれなかった。

村に入る前に地図を見た。海岸側から村に入ってすぐの家の主はマダムニャンニャンというそうだ。
名前に少し戸惑ったが、家の前に居る鋼鉄の生物にも驚かされた。巨大な鉄の塊が、頭だけでワンワンと吼えている。とりあえず、やたら怖い。
家に入ると、さっきの生物の小さい奴と大量の壺と、少し太めのおばさんが目に入った。これがマダムニャンニャン…

「お…お邪魔します…。」
「あら、お客さんなんて珍しいざます。お茶お入れしましょうか…」
「あ…いや、挨拶に来ただけですから…」

と言いつつも、一方的におばさんに話を聞かされ、余計疲れが溜まった。

その家から少し南へ行くと、二人暮しらしい老夫婦の家があった。お婆さんは元気に庭を掃除している。
お爺さんはというと、家の中の椅子にゆったりと座っている。どうやらおとなしい人のようだ。
試しに話しかけてみると、

「うむ……なんというか……電話…電話してくれ……外からな…。」

かなり無口だった。電話でならまともに話せるのだろうか?そういえばお爺さんは電話のそばで寂しそうに座っている。
何か可哀想な気もしたので、電話をかけてみよう…。
ちょうど、近くに電話ボックスがあったので、電話してみることにした…が、爺さんは電話に出るなり、

「ハロー! うるりらじいさんじゃ。島のことならわしにお任せ!迷ったら私に…」

と、延々に話し続けた。声は明るく、酒でも飲んだんじゃないか?と思えるほどの上機嫌で喋りまくっている。

「……ガチャ。」

リンクは無言で電話を切った。

電話ボックスを出、東へ進むと、「流行のゲーム屋」とやらに着いた。暇つぶしに店内へ入ってみた。
どうやら品物をクレーンで取るような遊びらしい。クレーンは巨大で、人くらいの大きさの物も取ることができるだろう。
品物の中にはお金もあった。が、なぜか品物の載った床が動いている。コツを掴まなければ難しそうだ。

タリンの家の北側の広場には、例の「空飛ぶニワトリ」のモニュメントが飾られている。見た感じ、風見鶏にしか見えないが。
モニュメントのすぐ傍には、犬とたわむれているマリンが居た。リンクはほぼ反射的に声を掛けた。

「やあ、マリン。」

馴れ馴れしいかな…と思いつつ、彼女に声を掛けた。すると彼女は、朗らかに笑いながらこちらを向いて話した。

「あっ!リンク!剣が見つかったのね?」
「うん、丁度海岸に流れ着いてたんだ。ちょっと魔物退治もして来た。しばらく魔物は出ないと思う。」
「へぇー…リンクって意外に強かったんだね。」

他愛も無い会話が続いた。しかし前二者の会話よりは有意義で、癒される時間だった。

「? そういえばタリンは何処に行ったんだ?家に人影が無かったけど…。」
「あっ、そうそう、タリンは森へキノコ狩りに出かけちゃったの。」
「森…に?」

海岸での梟の言葉が思い出された。確かあそこは「不思議の森」とか言っていたな…大丈夫なのか?
どっちにしろ、森には行こうとしていたところだ。

「そういえば、マリンは此処で何してたんだ?」
「この子(犬)に唄を歌ってあげていたの。私、歌うのが大好きなの。…聴いて!『風の魚』の唄よ!」

『風の魚』…
あの梟の言っていた、目覚めの時を待つ者…

思考を巡らせているうちに、マリンは歌い始めた。やはり人前では恥ずかしいのか、少し頬を染めている。
心地よい旋律が、意識の中を通り抜けてゆく。犬も立ち止まり、彼女の歌声に聴き入っている。
内容は、『風の魚』が夢を見、幻想、夢幻を作り上げる…という唄だった。
また、あの梟の言葉が甦った。

「『風の魚』の目覚めを告げる使者が現れたのじゃからなぁ……。『風の魚』を起こさねばその使者は島から出れぬとか。」

夢を見る『風の魚』を起こさなければ、島を出る事は出来ない…ならば、その夢とは一体…
…やはり、あの梟に話を聞かなければならないようだ。

「ありがとう、マリン。 とっても良い歌だったよ。」
「ふふ、ありがとリンク。」

そうして、広場を後にした。一目散に森へと向かった。

村の外れに、看板が立ててあった。
『不思議の森 ほんのちょっと 不思議です』
既に森の入り口付近にいるのだろうか、回りは木で囲まれている。
茂る雑草を剣で断ち切り、森へと分け入った。

不意に、鋭い羽音が近づいてきた。そして、目の前に現れたのはあの梟。
降り立つなり、梟はリンクに語りだした。

「ホホウ! 不思議の森にようこそ。目覚めを告げし、勇者殿。」
「……いきなりですまないが、教えてくれ。『風の魚』とは?この島は一体?」

梟の話はまだ続きそうだったが、「疑問」を断ち切るために、梟の話の腰を折った。
マリンに聞いても良かったのだが、何故かそんな気になれなかった。

「この島は、コホリントという地図には決して載らぬ島じゃ。」
「地図に載らない島…」

さらに梟は続けた。

「坊やの世界とは、ちと違う理(ことわり)で成り立っておる。…島から出るのは無理じゃのう。
  コホリント島を治める神、『風の魚』が眠る限り、外への道は開かれぬ。」

以前、この梟は『風の魚』は目覚めの使者を待っている…と言った。
そしてマリンが歌っていた『風の魚が夢を見、幻想、夢幻を作り出す』という唄。
地図に載ることの無い島、普通の世界とは違う理、島の神『風の魚』の存在。
眠れる神、目覚めの使者、それを阻むモンスター。

ある一つの、とんでもない考えが頭をよぎる。
…そんな事、あるはずが無い。いくらなんでも考えすぎだ。

「…ところで、村の南の『テールの洞穴』は見たか?
  この森にある鍵を持って『テールの洞穴』へ行くがよい。
   …『風の魚』は見ておるぞ。 ホッホウ!ホッホウ!」

梟は去っていった。『洞穴』の存在を告げて。
----間違いなくあの梟は、僕を導いている…一体、何故…
とにかく、『鍵』を見つけてみよう…
何も分からないまま、リンクは暗い森の中へと歩を進めた。

森には、モンスターが徘徊していた。手には木槍を持ち、我が物顔でうろついている。
しかしリンクは、怯むことなくモンスターの群れに切り込んでいった。
ほぼ無防備の敵に対し、容赦なく斬撃を与えた。
不意に遠距離から、高速で木槍が飛んできた。攻撃の手を休め、盾を構えた。
攻撃を受け流し、さらに激しく攻めていった。

しばらく進むと、目の前に狸が現れた。

「オラは、いたずら狸だ…粉っぽいものが嫌いだーよ。」

喋った。しかし、既に喋る梟と会っているので、大して驚きはしなかった。
自分でいたずら狸と言う辺り、かなり怪しい。聞いてもいないのに「粉っぽい物が嫌い」と妙な事も口走っている。
気にせずに進んで行くと、再度その狸が口を開いた。

「イッシッシッシ、不思議の森でポンポコポコリン迷うだべー!」

相手にするのはよそう…
そう思いながら、リンクは歩を進めた。

ところが、気が付けば一度来た道に戻っていた。戻ってみても、そこにあの狸の姿は無い。
どうやらあの狸に化かされたようだ。どうにかして、あの狸を追っ払わなければならない。
少し、寄り道をすることにした。

 

 

 

 

 

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