森を抜けると、広い道に出た。
狸を追い払うため、とりあえず「粉っぽいもの」を探すことにした。
森を出て、道なりに進んだところに、不気味な木で囲まれた家があった。
その先の道には大きな穴が開いており、行き止まりになっている。
とりあえず、粉を求めその家を訪ねた。

「すいませーん…」

返事が無い。室内には、明かりらしいものは一つも無く、ただ部屋の中央に人影が一つ、
その手前に大きな物陰が一つ、そして足元にちょろちょろ動き回る影が一つあり、後ろには大量の壺が置いてあった。
人影に近づく。どうやら老婆のようだ。出で立ちは魔女のようで、手前にあるのは大きな釜だった。

「すみません。今、訳あって粉っぽいものを探しているんですが…よかったら、何か頂けませんか?」

薄暗い部屋に、リンクの声が響いた。老婆は、

「トローリトロリ 森のキノコで魔法の粉 トローリトロリ」

とだけ言い、あとは何も言おうとはしなかった。無表情で、無愛想そうな顔だ。

「森のキノコ・・・それを持って来れば、魔法の粉を作ってくれるんですね?」

相変わらず、老婆は黙っていた。


再び、リンクは森の中へ入った。入ったものの、キノコの居所など見当もつかない。
----そういえば、タリンもここへキノコ狩りに来ていたんだっけ…
こんなモンスターだらけの森で、無事でいるだろうか…
そんなことを考えながら、適当に進んで行くと、洞穴のような入り口があった。
中に入ると、意外に広かった。道は奥へと続いており、薄暗く、大穴が所々に口を開けている。
何かの結晶や、大きな岩石もゴロゴロと転がっている。ヒビ割れた地面もあり、一箇所に留まっているのは危険そうだ。
結晶を剣で砕き、奥へと進む。すると、不意に暗闇から、鋭い羽音を立て、黒い影が襲ってきた。
コウモリのようだ。リンクは剣を振り回し、それを追い払った。
コウモリから逃れ、先へ進む。岩が並び思うように進めない。力任せに岩を押し、強引に道を作った。
程なくして、出口が見えた。微かに、外の光が漏れている。
洞窟を出てすぐの草むらに、隠れるようにして、大きなキノコが生えていた。


キノコ片手に、リンクは再び老婆の元を尋ねた。

「お婆さん、森のキノコを持ってきました。」

リンクは、家に入るなり老婆にキノコを差し出した。

「おうおう、それはネボケタケじゃ! 3秒でいいもん作ってやろう。」

すると老婆は、キノコを釜に入れ、物凄い手つきでかき回した。

「ほれっ、できあがりじゃ! 回数に気をつけて使えよ。 まずは、この部屋のどれかに振りかけてごらん…。」

そう言って、老婆は不思議な色をした粉の入った袋をリンクに手渡した。
見回すと、火を灯す台があった。試しにリンクは、粉を振るった。
すると、台には一瞬にして激しい炎が燃え上がった。暗い部屋は、一瞬にして明るくなり、老婆の後ろのたくさんの壺も照らし出された。

「うむ、それでいい。 敵の中にも変化する奴がいるかも知れん。 無くなったら森でキノコを採ってくるがいい。 新しく作ってやろう…」

そう言って、また老婆は黙り込んだ。さっきより幾分か表情が緩んでいるようにリンクは感じた。

「ありがとうございました!」

それ以上は何も言わず、軽くお辞儀をして、リンクは家を出た。

森への道の途中、妙なモンスターに出くわした。攻撃も何もして来ずに、ただクネクネ動き回っている。
不意に、リンクは老婆の言葉を思い出し、先程の粉をかけてみたくなった。剣を袋に持ち替え、粉をかける。
すると、モンスターの外見がガラリと変わった。かわいらしい目だったのが、一転して怪しい目つきになった。
不気味になったモンスターを見て、リンクは少し動揺した。

森へ入り、あの狸の前に立った。
不思議そうにこちらを見つめる狸をよそに、リンクは粉を振りかけた。
すると狸は、急にその場で物凄い回転をし始め、さらに周りの土手や草木にぶつかりながら加速している。
しばらくして狸が止まったかと思うと、大量の煙が吹き出した。
煙が消え、そこに立っていたのは、なんとタリンだった。呆気にとられているリンクを前にして、タリンは言った。

「ふうーっ キノコかじったら狸になった夢を見てただ。 何をやったか覚えてねえだが、なんだか楽しかっただよ。」

夢・・・・・・・?
夢も何も、今、目の前で狸がタリンに変わった。そのことに驚いてリンクは言葉も出なかった。
頭の中で色々考えたものの、結局考えはまとまらなかった。

「タリンさん、ここは危険なのでもう村に帰ったほうが…。」
「んー…おらはもう少し休んでから、うちへ帰ることにするだ。」

そういえば口調は確かに狸に似ている。しかし、ただそれだけだった。


この島は、解らない事が多すぎる。村のニワトリのモニュメントやモンスターの異常発生、風の魚、巨大な卵…
さっきのタリンのことも、目の前で起こったことなのに、結局何なのか把握しきれていない。
頭を抱えながら、リンクは森の奥へと進んだ。すると目の前に、草に囲まれた宝箱を見つけた。
中に入っていた物は、奇妙な装飾が施された鍵だった。梟が言っていた鍵とは、これの事だろうか…
しばらくそれを眺めていたリンクに、あの梟が突如やってきた。

「ホッ! その鍵を持って、『テールの洞穴』に行くがよい。その奥に眠る楽器を見つけ出してみよ!
     『風の魚』は待っておるぞ。 ホッホウ! ホッホウ!」

そう言い残し、梟は去っていった。

---風の魚が、待っている…

梟に初めて会った時、リンクは目覚めを告げる使者と呼ばれた。
一方で、この島の魔物達は『風の魚』の目覚めを阻むため、暴れだしている。
…もし風の魚が起きたならば、何が起こるのだろうか?
しかしどんなに考えようと、答えは出なかった。
---今はただ、梟に導かれるまま、進むしかない。


尾の長い生物を模した石像の台座に、鍵穴があった。
村の南に位置するこの『洞穴』の入り口には、重々しく鉄格子が降りている。
恐らくは、これを開ける為の鍵穴なのだろう。何者かの手で作られたらしい石畳が、この島の雰囲気とは違うものを感じさせる。
海岸沿いであることもあり、潮風が強く吹き付けている。しかし、一方で『洞穴』は多くの木々で覆われている。
梟は『テールの洞穴』と呼んでいた。その言葉通り、手にしている鍵には尾のような装飾が施されている。
鍵を挿す。すると、激しい地鳴りと大地の揺らぎ。そしてしばらくの静寂の後、轟音と共に鉄格子は開いた。

中に入ってみると、内部は四方の灯火に照らされていた。しかし、それでも息苦しいほどに薄暗い。
炎が揺らめくたびに、幾つも立ち並ぶ奇妙な石像の影が、まるで生きているかのように怪しくうねる。
構わず、リンクは奥へと進んだ。
大きな穴が開いている足場の悪い部屋で、ギョロ目の、多足生物が現れた。不気味に、じわじわとこちらへ寄って来る。
冷静に盾を構え、剣を振る。すると、妙な手応え。敵は倒れていない。またもじわじわと寄って来る。
何度も滅茶苦茶に切りつけたが、皮膚が硬いのか、もしくは異常に柔らかいのか、全く外傷が見られない。
相手は、斬撃を受けたところで、その勢いでふっ飛ばされているだけなのだ。

---どうすればいい…!

焦りながらリンクは、必死に思考を巡らせる。巡らせながら剣を振る。敵をまともに見ないまま、下を向き考え込む。
不意に、前方からの圧力が無くなった。見上げると、魔物の姿も無い。
どうやら、魔物は穴から落ちてしまったようだ。

尚も、洞穴は奥へと続いている。
進むにつれ、しっかりした足場が現れ始めた。辺りには、不自然に並べられたブロックが散乱している。
宝箱に入っていた鍵を見つけ、鍵穴を探す。しばらく歩いたところで、扉らしきものを見つけた。
開ける。低い音と共に開いた扉を抜けると、激しい光。その光が規則的に、壁伝いにこちらに向かってくる。
リンクは目を凝らした。凝らした瞬間に、素早く身をかわした。光の中心に、禍々しい瞳が瞬いている。
しかし、壁を伝っているだけで、、特にこちらを襲う気は無いらしかった。
と、後方から、ガチャガチャと乾いた音が聞こえる。振り向き様に剣を振った。手応えは無い。
上を見ると、洞穴の天井に付かんばかりの跳躍で、骸骨が空を舞っていた。ガチャリと、着地音が響く。
踏み込んで、斬る。リンクは走った。骸骨は、リンクを睨み、カタカタと骨を鳴らしている。

「せぇぇあぁぁぁーーーっ!!」

雄叫びを上げ、剣を振り下ろした。骸骨は、跳躍で身をかわす。しかし渾身の斬撃は、骸骨の膝の辺りを薙いだ。
堪らず、骸骨は逃げる。リンクに背を向け、勢いよく跳ね回ったが、そこが袋小路であることに骸骨は気付いた。
リンクは遠い間合いから一気に駆け、敵の着地の間も無くとどめを刺した。


次々に鍵が見つかり、扉が開く。
地下に降りたり上ったり、そうして奥へと進んでいくうちに、妙な部屋に出た。
明らかに、他の部屋とは違う、細長い通路が続いていた。その奥には、トラップに守られ、篝火で照らされた宝箱があった。
中には、一枚の綺麗な羽根が入っていた。羽毛の一本一本が、神秘的な光を放っている。
手にすると、不思議に体が軽くなった。リンクはその場で、床を蹴った。すると、あの骸骨のような高い跳躍。
リンクは、ありがたく頂くことにした。

その羽根は早速、役立つこととなった。進んでいくうちに、行く手にはぽっかりと大きな空洞が口を開けていた。
空洞を隔てた向こう側に、鍵の付きのブロックがあった。恐らく、その目の前の階段を塞ぐためだろう。
羽根を身につけ、跳ぶ。軽々と、空洞を跳び越した。ブロックの鍵を開け、階段を上る。
広い通路に、篝火が燃やされていた。宝箱もある。その中には、これまでとは全く違う、特殊な装飾の施された鍵が入っていた。
篝火に照らされ、不気味な重厚感を漂わせ怪しく光る。


入った瞬間、突然扉が閉まる。
目の前には、棘だらけの鉄の棒、いや、柱。
ゆうにこの部屋の端から端まで、一杯いっぱいの長さである。その上、直径はリンクの胴回りなどより遥かに太い。
そして柱の向こう側で、不気味に微笑む白いモンスター。黒い触角が、不規則に動いている。
剣を構え、盾を持ち直す。出方を窺う。
すると、モンスターは表情も変えず、柱に触れたかと思うと、その柱が猛スピードで迫ってくる。
とっさに、手にした盾を捨て、あの羽根に持ち替える。跳ぶ。かわしたかと思った瞬間、目の前にモンスター。
体当たりを受け、吹き飛ばされる。素早く立ち上がったところに、柱が迫る。休む間も無く、跳ぶ。
突進してきたモンスターに、目一杯に剣を突き立てた。敵の叫び声が上がる。が、まだ傷は浅い。
またも、柱が迫る。タイミングを見計らい、跳ぶ。着地と同時に、相手の脳天に剣を振り下ろした。まだ倒れない。
尚も斬る。倒れない。投げ捨てた盾を拾い、突進に耐えながら剣に力を込める。気合を入れ、剣を構える。
「せやあぁぁぁーーっ!!」
再度突進してきた不気味な微笑みに、渾身の回転斬りを見舞った。
敵は、動きを止めたかと思うと、体を禍々しく点滅させ蒸発しだし、最期に一気に爆発した。


リンクは、ふう、と溜め息を漏らした。目を閉じ、肩の力を抜き、その場にへたり込んだ。疲労が激しい。
すると、モンスターに喰われでもしていたのか、一匹の小さな妖精が、フワフワと近寄ってきた。
思わず手を触れると、一気に疲れが吹き飛んだ。敵の体当たりで生じた腫れも治まっている。妖精は、煌めきと共に消えた。
見計らったかのように、扉が開いた。元来た扉の他に、もう一つあったらしい。
立ち上がり、扉の先を睨む。先ほど手に入れた鍵を使うらしい、扉が見えた。

 

 

 

 

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