一際大きな鍵穴がある。鍵を挿し込み、ドアを開ける。


「ンガフフ!! ンガフフ!! ヨソモノ!! ジャマモノ!!」

部屋に入ると共に、猛る怒号を浴びせられた。
全身を堅い兜で覆ったような、それでいて芋虫のような動きをする巨大な魔物が、
激しい怒りをあらわにしながら襲ってきた。

よそ者、邪魔者…
やはり魔物達は、『風の魚』をどうしても起こしたくないようだ。
梟は楽器を手に入れろと言った。その楽器を守っているのか…?
しかし、今はそんな事を考えている余裕は無い。

この部屋の両端には、今までの部屋とは比べ物にならないほど大きな穴が開いている。
穴の下には、無数の骸が見える。吊るされたまま、骸骨化しているようだ。
そして敵は、その穴に沿って激しく動き、体当たりをしてくる。
盾でガードをするものの、反動が今までの敵の比ではない。
--- このままだと、穴に落ちる…!
とっさの機転で盾を羽根に持ち替え、体当たりをかわす。

飛び越しざまに、敵の尻尾が見えた。
体全体の、まるで金属のような質感は無い。あそこならば、斬れるのかもしれない。
リンクは剣を構え、力を溜める。そして見え隠れする敵の尻尾めがけ、回転斬りを放った。

敵の悲鳴が聞こえる。痛みに悶えるように、攻撃の激しさが増す。
リンクは怯む事無くまた剣を構える。力を溜め、跳躍で体当たりをかわす。
着地際に、再度回転斬りを見舞った。またも、敵は悲鳴をあげる。

幾度か斬るうちに、敵は動きを止めた。
そして一瞬全身が光ったかと思うと、尻尾の方から、次々と体が散りぢりになっていく。
最後に頭が残り、それも次第に砕けていき、消え去った。


敵が倒れると共に、奥の部屋へ通じる扉が開かれた。

その部屋には、今までの部屋とは違う空気が流れていた。
4つの像が、七色に光るバイオリンを中心に置かれ、まるで祭壇のようになっている。
--- これが、梟の言っていた楽器…
リンクは、バイオリンに近づき、それを手にした。

その瞬間、バイオリン --- 『満月のバイオリン』は、ひとりでに美しい音色を奏でた。
悲しげに響くそのメロディーは、マリンの歌っていた『風の魚』のメロディーだった。

リンクは音と共に生み出される光に包まれ、不思議な声を聞いた。

「…沼……花咲く沼に、新たな道が続いている…」



いつの間にか、洞穴の入り口に戻っていた。
--- あの楽器、そしてあの声は一体…幻だったのだろうか?
しかしリンクの手には、先程の七色のバイオリンがしっかりと握られていた。

--- とりあえず、村に戻ろう。
そう思って、足早に洞穴を後にした。


洞穴を出てすぐの所に、あの梟が待ち受けていた。

「ホッホウ! ホッホウ! それこそ『セイレーンの楽器』! やはり坊やは本物じゃ! 重なる無礼を許されよ…」
「『セイレーンの楽器』…一体これが、『風の魚』とどう関係があるんだ?」

色々疑問はあったが、まずは魔物が守ろうとしていた、この不思議な楽器の事を聞いた。

「その楽器は、『風の魚』を起こす力を持っておる。」
「…だから、奴らはこれを奪われまいとして襲ってきたのか…」
「楽器は全部で8つある。8つすべて揃えるのじゃ。」

8つ…他の楽器もこの洞穴のような場所にあるとすると、
考えていたより大冒険になりそうだ。

「解った、楽器は揃えるよ。…けど、何故そんな事を僕に教えてくれるんだ?」
「…ワシは、坊やの行くべき道を示さんが為に遣わされたもの。
北にある『ゴポンガの沼』に行きなされ。ホッホウ!」

そう言って、梟は去っていった。


村に戻ろうと歩いていると、図書館の辺りで4つ子の2人に呼び止められた。

「あっ!にいちゃん、大変!大変だよー!あのねあのね!」
「そうなんだよ!大変なんだよ!」
「! どうした2人共、何があった!」

慌てて駆け寄ってくる2人の様子に、ただ事ではない気配を感じ、話を聞いた。

「モリブリンが村にやってきて…」
「あのね、モリブリンが、たくさん入って来たんだ!そいでね…」
「そうなんだよ!すぐそこの家に集まって来…だからね、あのね…」
「ワンワンのいる家でね、何か…」
「やっ、そうそう、そうなんだよ!モリブリンの奴なんと…」
「あのね、だからね、あのね…」

「…よし、解った。とりあえず2人共落ち着いて。」

…自分で確かめた方が早そうだ。


モリブリンといえば、森を徘徊していたモンスターの名前…
それが村に、それも集団でやって来た…まずいじゃないか!
リンクは、急いで「ワンワンのいる家」に向かった。

すると、そこにはモンスターはおらず、そして「ワンワン」と呼ばれていたあの生き物も居なかった。
とりあえず、家の主であるマダムニャンニャンに話を聞いてみる。

「大変ざんす!たーいへんざんす!」
「どうしたんですか!、どこか怪我でもしたんですか?」
「うちのワンワンが、モッ、モッ、モリブリンにさらわれたざます!」

聞けば、表に飼っていたあの鋼鉄のペット「ワンワン」を、集団のモリブリンにさらわれたのだという。
見るからに凶暴そうなあのワンワンをさらっていくとは…どういう事だ?
しかし、村人の誰にも怪我人が出なかったのは幸いだった。

「おお、誰かワンワンを助けて…」
「分かりました、僕が探してみます。」

これだけ悲しんでいる人を放ってはおけない。
第一、相手はモンスター。村人達では太刀打ちできないだろう。
なるべく早くに見つけて、『ゴポンガの沼』を探す事にしよう。


 

 

 

 

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